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「みんなのうた」と教訓が真逆!―イカロスとダイダロスの神話(TED)

羽

ライフハックとしてではなく、英語学習にも極めて有用なのが、著名人が10分程度のプレゼンを行うTEDです。

TED Talksとは、あらゆる分野のエキスパートたちによるプレゼンテーションを無料で視聴できる動画配信サービスのことです。10年ほど前にサービスが開始されてから、政治、心理学、経済、日常生活などの幅広いコンテンツが視聴できることから人気を集めています。

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TEDは4000を超える膨大な数の動画があります。しかし慣れないうちは、動画の探し方や視聴のコツが分かりませんよね。この記事では、数多くのTEDを見てきた管理人(塩@saltandshio)が、心を揺さぶられたトークをあらすじと一緒にご紹介します。

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エイミー・アドキンス:イカロスとダイダロスの神話

エイミー・アドキンス:イカロスとダイダロスの神話

古代ギリシアの神話では、イカロスはロウと羽で作った翼でクレタ島上空をを飛び、人間の自然の理に抗ったとされています。地上から見ていた人々によると、彼はさながら神のようであり、彼自身もそう感じていました。しかし彼の住む社会では、神と人間を分かつ境界線は絶対的なものであり、それを侵そうとする者には厳罰が下りました。このイカロスとダイダロスの神話について、エイミー・アドキンスが解説しています(約5分)。Amy Adkins / The myth of Icarus and Daedalus.

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神話とはお坊さんの説法のようなもの

本題に入る前に、なぜ世界各国で古くから神話が長く語り継がれているのでしょうか。日本にもヤマトタケルノミコトなどの古い神話が多く残されています。不思議なことに、どの神話でも出てくる神様はやけに人間くさい神様ばかりです。

それは神話を通して、自分の取った行動によってどのようなことが起きて、どんな報いを受けるのかという、人生の指南書でもあり道徳の教科書でもあったから――という話を先日のブログでも紹介しました。

比較神話学や比較宗教学で知られるジョーゼフ・キャンベルは、それらを『千の顔をもつ英雄』という著書の中で紹介し、ヒーローズ・ジャーニーという理論を体系化しました。

ジョーゼフ・キャンベル(Joseph Campbell、1904年3月26日 – 1987年10月30日)は、アメリカ合衆国の神話学者。ジョゼフ・キャンベルと表記されることもある。比較神話学や比較宗教学で知られる。

彼の作品は広大で、人間の経験に基づく多面的なものである。彼の人生観は、しばしば「至上の幸福に従え」(Follow your bliss)という一文に要約される。

Wikipediaより

余談ですが、ジョージ・ルーカスは大学でジョーゼフ・キャンベルの授業をうけて大いに感動し、そのヒーローズ・ジャーニー(英雄伝説)の基本構造を『スター・ウォーズ』3部作にそのまま取り入れたのは有名な話です。

ジョーゼフ・キャンベルが晩年にビル・モイヤーズと対談したテレビ番組は、『神話の力』という本にまとめられて大きな反響を呼びました。神話が今を生きる私たちになにを教えてくれるのかという疑問に対し、心の教科書として多くの答えを導き出しているその本は、『千の顔をもつ英雄』と共に多くの人に読まれ続けている名著です。

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イカロスの翼とはどんな話か

今回紹介する「イカロスとダイダロスの神話」ですが、40代以上の人ならNHKの「みんなのうた」で「勇気ひとつを友にして」という曲の元ネタといえばピンとくるのではないでしょうか。トラウマソングとしても有名なこの歌は、「イカロスとダイダロスの神話」というギリシャ神話がもとになっています。

ただ、「イカロスの翼」という言葉はどこかで聞いたことがあっても、ダイダロスという名前は聞いたことがない人がほとんどはないでしょうか。それくらい、知名度としてはイカロスのほうが上ですが、じつは物語の主人公はダイダロスです。

イカロスが生まれる何年も前、彼の父ダイダロスは天才発明家として、職人として、また彫刻家として、故郷アテネで名を馳せていました。

Years before Icarus was born, his father Daedalus was highly regarded as a genius inventor, craftsman, and sculptor in his homeland of Athens.

ギリシャ神話では、大工という職種をこの世に生み出し、大工道具も発明した人がダイダロスだったと語られています。彼が作る彫像は生きているようで、ヘラクレスまでもが本物の人間と見間違うほどの腕前だったそうです。

ヘラクレス(῾Ηρακλής, Hēraklēs) は、ギリシア神話の英雄。ギリシア神話に登場する多くの半神半人の英雄の中でも最大の存在である。のちにオリュンポスの神に連なったとされる。

Wikipediaより
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傲慢だった父ダイダロス

天才の名を欲しいままにし、腕利きで高名だったダイダロスでしたが、その才能ゆえに傲慢で嫉妬深くもありました。どれくらい嫉妬深かったかというと、甥(別の説では甥の父親)のほうが腕のいい職人だったため、嫉妬のあまり甥を丘から突き落として殺してしまうほど自分勝手な人間でした。

甥を殺した罰として、ダイダロスはアテネからクレタ島に追放されます。しかし、アテネでの評判を以前から聞いていたクレタ島の王様ミノスは、追放されてやって来たダイダロスをこれ幸いとばかりに喜んで島に迎い入れます。自分を手厚く歓迎してくれた王の願いを受けて、ダイダロスは宮殿づくりの技術指導などを行うようになります。その傍ら、ミノスの子どものために機械仕掛けで動くおもちゃを作ったり、船の帆(マスト)を発明して、より自分の技術を限界まで高めて次々と人間の限界を超えていきました。

しかし、ここでダイダロスは再び過ちを犯します。

ミノス王の妻であるパーシパエーには、ある問題を抱えていました。それは、神ポセイドンからの呪いを受けて、夫がいるにもかかわらずミノス王が大事にしている牡牛に心を奪われていたのです。牡牛を愛してしまっていたパーシパエーは、なんとか牡牛の気を引きたいから力を貸してほしいとダイダロスに助けを求めます。すると、ダイダロスはこの無理難題なお願いを引き受けてしまうのです。

ダイダロスは木を使って、中が空洞の牝牛を作りました。本物そっくりの出来だったので相手の牡牛は騙されました。ダイダロスの作品の内部に潜んだ
パーシパエーは妊娠して、半人半牛のミノタウロスを産みました。

Daedalus constructed a hollow wooden cow so realistic that it fooled the bull. With Pasiphaë hiding inside Daedalus’s creation, she conceived and gave birth to the half-human half-bull minotaur.

もちろんミノス王はこれに激怒します。自然の理から逸脱したダイダロスを責め立て、その罰として脱出不可能の迷宮をダイダロスに作らせたあと、ミノタウロスをそこに閉じ込めてしまいます。迷宮作りを終たあとは、ダイダロスと彼の息子のイカロスを、ミノス王は島にあるもっとも高い塔の中にある牢屋へとぶち込みました。

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息子のイカロスも傲慢だった

しかし、良くも悪くも、転んでもただでは起きないのがダイダロスです。ダイダロスは、塔に止まる鳥たちをつぶさに観察して、なんと塔に止まる鳥の群れから集めた羽とろうそくのロウを使って、大きな翼を2組作ってしまいます。これが後世まで長く語られる「イカロスの翼」です。

息子イカロスにその羽を背負わせるとき、ダイダロスはこう警告しました。飛ぶときに海に近づきすぎると、翼が湿ってしまって重くて使い物にならなくなるだろう。太陽に近づきすぎると熱がロウを溶かして翼はバラバラになってしまうだろう。どちらの場合も死んでしまう。

だから、うまく逃げるためには中間を飛び続けることが大事だ。

As he strapped the wings to his son Icarus, he gave a warning: flying too near the ocean would dampen the wings and make them too heavy to use. Flying too near the sun, the heat would melt the wax and the wings would disintegrate. In either case, they surely would die.

Therefore, the key to their escape would be in keeping to the middle.

イカロスにそのことをはっきりと伝えたあと、ダイダロス親子は塔から飛び立ちます。彼らは、空を飛んだ初めての人間になりました。しかし、順調だった脱獄は思いがけない展開を迎えます。次第に飛ぶことの快感に溺れたイカロスが、忠告を無視してだんだんと高度を上げていったのです。

自分は神の力を得たのだと勘違いをしたイカロスが空高く飛んでいく様子を、ダイダロスはただただ恐怖の眼差しで見つめるよりほかありませんでした。

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まとめ:「みんなのうた」は教訓が真逆

イカロスがドンドンと太陽に向かって飛んで行った結果、太陽の熱で翼のロウが溶け出します。ついにロウが溶け落ちて翼を失ったイカロスは、そのまま海へと真っ逆さまに落ちて悲惨な最後を迎えます。

ダイダロスが人間でありながら、身の程をわきまえず自然の理を侵すとどうなるかを何度も何度も無視したのとまさに同じように、イカロスもまた自身の傲慢さにより命を奪われたのです。

しまいには2人とも、節度ある生き方から逸脱したことの高い対価を払う結果となったわけです。イカロスは命をもって、そしてダイダロスは後悔をもって。

Just as Daedalus had many times ignored the consequences of defying the natural laws of mortal men in the service of his ego, Icarus was also carried away by his own hubris.

In the end, both men paid for their departure from the path of moderation dearly, Icarus with his life and Daedalus with his regret.

物語なら、ここで「はい、おしまい」で終わりになります。しかし、ここからもう一歩、足を踏み出して研究を重ねたのがたのがジョーゼフ・キャンベルです。ジョーゼフ・キャンベルは、『神話の力』で「イカロスとダイダロスの神話」を以下のように語っています。

どういうわけか、人々はダイダロスよりのほうを話題にします。まるで、この若き宇宙飛行士の墜落の原因が翼そのものであるかのように。しかし、これは、工業や化学がけしからんというようなことじゃない。イカロスはかわいそうに海に落ちた――しかし中間の高さを飛んだダイダロスは、無事に向こう岸に着いたのです。
(中略)
欲求や熱情や感情に従ってなにかするときには、精神をしっかりコントロールして、衝動に駆られて破滅する危険を避けるべきです。

神話の力 / ジョーゼフ・キャンベル

論語「中庸の徳たるや、それ至れるかな」という言葉があります。不足でもなく、余分のところもなく、丁度適当にバランスよく行動できるということは、人徳としては最高のものであるという意味です。ジョーゼフ・キャンベルはヒンドゥー教の一説を例に出し、「それは危うき道なり、剃刀の刃のごとし」という言葉を例に用いています。国や歴史が違うのに、似たような教訓を神話や偉人達は残しているのは不思議ですね。

ダイダロスは傲慢ではありましたが、バランスの良いところをちゃんと見極めて飛んでいました。それが結果的にダイダロスとイカロスの命運を分けたといえます。「勇気ひとつを友にして」の四番では、イカロスの功績を称えて「だけどぼくらはイカロスの、鉄の勇気を受け継いで、明日に向かい飛び立った」とありますが、そもそもイカロスは傲慢な人間で、それゆえに命を落としました。

ですので、教訓的には「忠告も聞かずに高く飛ぶのは愚の骨頂であり、そんな勇気を受け継いで飛んだらダメ!ゼッタイ!」ということになります。このように、神話をよくよく読み解くと、その中には現代でも通じる戒めと教訓がふんだんに盛り込まれていることがわかります。

もし、この先に神話や昔ばなしを読む機会があれば、ぜひ、もう一歩踏み込んで読んでみてください。そうすればきっと、物語から思いがけないメッセージを受け取ることが出来るようになるでしょう。

英語全文

In mythological ancient Greece, soaring above Crete on wings made from wax and feathers, Icarus, the son of Daedalus, defied the laws of both man and nature. Ignoring the warnings of his father, he rose higher and higher.

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To witnesses on the ground, he looked like a god, and as he peered down from above, he felt like one, too. But, in mythological ancient Greece, the line that separated god from man was absolute and the punishment for mortals who attempted to cross it was severe. Such was the case for Icarus and Daedalus.

Years before Icarus was born, his father Daedalus was highly regarded as a genius inventor, craftsman, and sculptor in his homeland of Athens. He invented carpentry and all the tools used for it. He designed the first bathhouse and the first dance floor. He made sculptures so lifelike that Hercules mistook them for actual men. Though skilled and celebrated, Daedalus was egotistical and jealous. Worried that his nephew was a more skillful craftsman, Daedalus murdered him. As punishment, Daedalus was banished from Athens and made his way to Crete.

Preceded by his storied reputation, Daedalus was welcomed with open arms by Crete’s King Minos. There, acting as the palace technical advisor, Daedalus continued to push the boundaries. For the king’s children, he made mechanically animated toys that seemed alive. He invented the ship’s sail and mast, which gave humans control over the wind. With every creation, Daedalus challenged human limitations that had so far kept mortals separate from gods, until finally, he broke right through.

King Minos’s wife, Pasiphaë, had been cursed by the god Poseidon to fall in love with the king’s prized bull. Under this spell, she asked Daedalus to help her seduce it. With characteristic audacity, he agreed. Daedalus constructed a hollow wooden cow so realistic that it fooled the bull. With Pasiphaë hiding inside Daedalus’s creation, she conceived and gave birth to the half-human half-bull minotaur. This, of course, enraged the king who blamed Daedalus for enabling such a horrible perversion of natural law. As punishment, Daedalus was forced to construct an inescapable labyrinth beneath the palace for the minotaur.

When it was finished, Minos then imprisoned Daedalus and his only son Icarus within the top of the tallest tower on the island where they were to remain for the rest of their lives. But Daedalus was still a genius inventor. While observing the birds that circled his prison, the means for escape became clear. He and Icarus would fly away from their prison as only birds or gods could do. Using feathers from the flocks that perched on the tower, and the wax from candles, Daedalus constructed two pairs of giant wings.

As he strapped the wings to his son Icarus, he gave a warning: flying too near the ocean would dampen the wings and make them too heavy to use. Flying too near the sun, the heat would melt the wax and the wings would disintegrate. In either case, they surely would die. Therefore, the key to their escape would be in keeping to the middle. With the instructions clear, both men leapt from the tower. They were the first mortals ever to fly.

While Daedalus stayed carefully to the midway course, Icarus was overwhelmed with the ecstasy of flight and overcome with the feeling of divine power that came with it. Daedalus could only watch in horror as Icarus ascended higher and higher, powerless to change his son’s dire fate. When the heat from the sun melted the wax on his wings, Icarus fell from the sky. Just as Daedalus had many times ignored the consequences of defying the natural laws of mortal men in the service of his ego, Icarus was also carried away by his own hubris.

In the end, both men paid for their departure from the path of moderation dearly, Icarus with his life and Daedalus with his regret.

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本を読む気はないけれど、ギリシャ神話がどんなものか知りたいと思った方は、中田敦彦さんのYouTube大学がオススメです。

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